FUMIYA MARU
クリエイティブ部門で、
私は、企業の強みを抽出し、
デザインによって可視化しています。
株式会社DACホールディングス
クリエイティブ室
グラフィックデザイナー
丸 史也
クリエイティブディレクター、アートディレクター、デザイナー、プランナーといった広告の企画や実制作を担う「クリエイティブ」部門は、現在DACホールディングスに属している。おもに総合広告事業を展開するデイリースポーツ案内広告社、観光ソリューション事業を展開するデイリーインフォメーションなどと連携し、アウトプットを生み出している形だ。転職組の丸史也は現在入社4年目。いくつものコンペに参加してきた中で、本案件は媒体提案のない「純粋なデザインコンペ」だったとして強く印象に残っているという。
このプロジェクトは、多くの案件と同じようにコンペからはじまりました。クライアントはリサーチ会社。企業のマーケティング活動を支援するために、ネットリサーチ、街頭アンケート、グループインタビューなどを実施しています。オリエンテーションは、クライアントが提供している価値を「キービジュアル」という、ひと目でわかるデザインに集約し、広告展開したいというものでした。自分たちの強みが可視化できれば、取引先だけにとどまらず、就職活動中の学生にもメッセージが発信しやすくなる。採用広告にも展開できればなお良し、というお話でした。BtoB企業の中には、今回のクライアントのように、実力はあるのにコミュニケーションがうまく機能しておらず、なかなか認知拡大ができていないという課題を抱えている企業も多いんですよね。
営業からの説明を受け、私たちクリエイティブは3人体制のチームを組み、ディスカッションをスタート。クライアントは、目的に応じて多彩なリサーチ手法を持っています。その選択肢の多さが強みでもあり、しかし同時にそれは、外から見た際のわからなさでもある。「要するに何ができるの?」を、ひとつのビジュアルにまとめるのはとても難しいことがわかりました。
今回のコンペで珍しかったのは、出稿メディアが決まっていなかったこと。通常であれば、新聞なら新聞、駅貼りなら駅貼り、とあらかじめ媒体予算を割いてコンペを実施しますし、媒体が決まっていればその媒体にふさわしいビジュアルやコピーを検討しますが、今回はキービジュアルのみの提案。純粋なデザインコンペでした。グラフィックデザイナーである私の力量が試されることになりました。
クリエイティブやデザインという単語を聞くと、「発想」や「表現」に目が行きがちですが、私たちが重視しているのは「そもそもを考える」ことです。クライアントが何に悩みを感じていて、それを解決するためには何をすべきか。さらにさかのぼって、そのオリエンテーションが出てきた背景には何があるのか。その根本を見つめなければ、表面的に飾るだけになってしまう。私は「真の提案」をするために、課題を見つけるところが一番のポイントだと思っています。それを解決するための企画力、企画を具現化するための技術力やセンスが求められる。でも、そこまでなら並のデザイナー。さらにそこに、「私」という個性をどのように出していけるか。コンペが差し迫る中で、私はクリエイティブディレクターのもと、いくつもの企画を検討しました。そして、キービジュアルをあえて複数で展開できるアイデアにまとめていくことに決めました。
リサーチの手法や、それが貢献している業界などを選定し、私たちはキービジュアル5種類でシリーズ展開する提案をしました。それぞれ、連想しやすいアイコンを複数開発し、組み合わせることで形をつくる。たとえば「医療系」なら、医薬品カプセルや注射器のアイコンを組み合わせて、ハートのマークを形づくるわけです。パッと見て誰にでもわかるビジュアルでありながら、よく見るとリサーチ会社としての多彩な機能も伝わる仕掛けですね。プレゼンでも高い評価をいただき、コンペを見事勝ち抜くことができました。
その後、実制作に移行しましたが、お客様の業務の実態をしっかりとビジュアルに落とし込むために、デザインは何度も何度も修正を繰り返しました。プレゼン時の企画は、まだアイデアレベル。それを世の中に出せる状態にするためには、各部門のチェックも必要になります。その上で、インパクトも損なってはいけない。ブラッシュアップをし続け、最終的には新聞や雑誌に広告掲載されました。
プレゼンを通過した時、手がけたデザインが世に出た時、いろいろなデザイナーとしての喜びがありますが、私は「効果が出た時」にこだわりがあります。今回のリサーチ会社のキービジュアルは、営業トークでも活用されるなど、お陰さまで評判も上々だと聞いています。美しくてもカッコ良くても、効き目がなければ意味がない。その意味を再認識できたプロジェクトでしたね。